クリニックの開業のための7つの準備
目次
クリニックを開業する際はクリアすべき問題がたくさんあり、準備を予定通り行なうことが不可欠です。近年はクリニックが乱立している地域もあるので、開業前のプランニングが、開業後の成功を左右します。
クリニックを開業する際にどのような準備が必要か、項目別に見ていきましょう。
準備1:クリニックの開業前に決めること
クリニックを開業する時は、どのようなコンセプトのクリニックを開業するか、最初に決めておかなければなりません。クリニックの科目によって必要な設備や建物の坪数が異なり、開業に必要な資金の額にも影響します。
開業の条件によって必要となる資金の額は異なりますが、科目ごとの開業資金の額はおおよそ以下の通りです。土地や建物は条件によって異なるので、必要最低限な設備費用のみ記載しています。
科目 | 開業資金の目安 |
---|---|
内科 | 2,000~3,500万円 |
眼科 | 2,000~4,500万円 |
皮膚科 | 1,000万円~ |
整形外科 | 2,000万円~ |
小児科 | 1,000万円 |
耳鼻咽喉科 | 2,000万円~ |
精神科 | 400万円 |
産科・婦人科 | 2,000万円 |
物件取得の費用から、内外装の工事費用を試算すると、概算としては以下のようになります。
資金の内容 | 目安の金額 |
---|---|
店舗の家賃 | 1坪2万円×40坪=家賃80万円 |
店舗の保証金 | 家賃×10ヶ月分=保証金800万円 |
店舗の工事費 | 坪単価50万円×40坪=2,000万円 |
開業を考えるにあたり、自分が診察する内容を考えておかなければ、その後のプランは一切決まりません。ポイントとして設備が増える科目ほど、設備を置くスペースが必要になるため、建物面積も大きくなることを覚えておきましょう。
開業場所と退職時期
クリニックを成功させるためには、ただ人通りが多い場所を選ぶのではなく、周辺に競合クリニックが少ない場所を選ばなければなりません。
周辺に何のクリニックがあるかをリサーチしつつ、ある程度の人口の変化を予測し、コンセプトと一致した患者の年齢層が多い場所を選ぶと良いでしょう。
勤務先の医院に対して6か月前には退職の意向を伝え、1~2か月前に退職するのがベストです。2重登録できない保険医の登録をしなければならないこと、無収入の期間を少なくすることを考えると、このタイミングがベストと言えます。
準備2:開業に必要な資金はどうするか?
クリニックを開業する際に、すべてを自己資金で賄える方は少ないでしょう。クリニックの開業に必要な資金は3,000~6,000万円ほどになるため、融資を受けて開業の準備を進めるのが普通です。
資金を調達する先として、日本政策金融公庫、福祉医療機関、銀行などの民間金融機関などが挙げられます。
日本政策金融公庫
国が管轄している機関であり、起業する方が融資を受ける先として有名です。無担保、保証人無しでも融資を受けられるのが特徴で、審査も緩めと言われていることもあり、多くの方が活用する融資先です。
福祉医療機関
こちらも国の機関で、医療機関や福祉施設を経営する方に貸付事業をしています。長期間や低金利での融資も可能なので、戸建てでクリニックを開業する方の借入先になることが多いです。
民間金融機関
金融機関は融資に積極的なのですが、信頼できる方に融資をしたいこともあり、銀行は審査が厳正です。よくまとめられた事業計画書や、資金計画書を準備して提出することがポイントになります。
資金の調達先 | 特徴 |
---|---|
日本政策金融公庫 | 無担保、保証人無しでも融資を受けられる。審査も緩やかで、多くの方が活用する融資先。 |
福祉医療機関 | 長期間や低金利での融資も可能なので、戸建てで開業する方の借入先になることが多い。 |
民間金融機関 | 銀行は審査が厳しい。事業計画書や資金計画書を、入念に準備することがポイント。 |
これらの機関から融資を受けることが決まっても、融資金額が想定よりも少なくなることがあるかもしれません。一般的に起業する際には、開業資金の50%を自己資金で賄うことが勧められています。
しかし必要な資金の額が多いクリニックの開業では、そこまでの金額を用意するのが難しいものです。
対策方法の1つとして、医療機器のリースが考えられます。融資を利用して医療機器を購入して返済をするのと、医療機器をリースして利用料を払うことは、意味としては同じです。
しかし開業時に全額を一度に支払わなくても良いリースの方が、用意できる資金が限られている場合には適しているでしょう。ただし医療機器に対する支払い総額は、リースの方が若干高くなります。
準備3:早めに決定すべき事項と手続き
クリニックを開業する際に、早めに決定しておかなければならない事項もあります。以下の内容は、後々のスケジュールに大きく影響するので、早めに決定しておきたい点です。
医療機器
診療する科目によって必要な医療機器が異なります。しかも医療機器は定価があってないようなものですので、いかにして交渉して安く導入するかがポイントになります。
早い段階で必要な医療機器を決め、医療機器商社と上手に交渉することで、開業する際の資金の負担を減らすことができます。
スタッフ数と雇用条件
スタッフの数と雇用条件は、運転資金に直接影響する要素です。新たに開業する場合は、経験者を募集したとしても新しい職場になるので、綿密な打ち合わせが不可欠です。
クリニックの面積や選択する診療科目によって、必要なスタッフの数が決まります。パートであれば、常勤に比べて人件費を抑えられるので、まずはパート勤務でスタッフを募集するのも良い方法です。
役所への届け出
新規でクリニックを開業するにあたり、診療所開設届を保健所に提出する必要があります。その他にも診療科目や診療内容によって、様々な機関に申請を出さなければなりません。
診療所開設届などは、役所と相談して決めなければならないことも多いので、1回で受理されるとは考えない方が良いです。事前にじっくりと相談して、説明をしっかりと聞き、スムーズな受理を目指しましょう。
決定すべき事項 | ポイント |
---|---|
医療機器 | 早い段階で必要な医療機器を決め、商社と上手に交渉して、開業資金の負担を減らす。 |
スタッフ数と雇用条件 | 常勤より人件費を抑えられるので、まずはパート勤務でスタッフを募集するのも良い方法。 |
役所への届け出 | 診療所開設届は、1回で受理されるとは考えず、事前に相談してスムーズな受理を目指す。 |
これらの内容は早めに決定しておき、少しずつ計画を実行していく必要がある内容です。複雑な届け出も含まれるので、早い段階から必要書類などを準備しておきたいところです。
準備4:クリニックの開業に伴う内装工事
クリニックの内装工事には多くの費用がかかるため、経営面から考えると非常に重要なポイントです。
医療機関の設計は特殊なため、医療機関を設計したことが無い設計事務所に依頼することは避けましょう。クリニック内の動線や機器の配置を考えて設計してくれる、経験豊富な設計事務所に依頼すると安心です。
医師やスタッフが診察しやすいように設計すれば、開業後の診察に無駄がなくなります。コスト削減のアイデア、使い勝手の良さ、メンテナンスが少なく済むなど、希望するポイントを満たした設計にしてもらいましょう。
後々のトラブルを避けるためには、何度も打ち合わせを行ない、医師のイメージと設計事務所のイメージが重なるようにすることが重要です。
届け出をする際は、消防法や保健所からの指示も合わせて考える必要があります。設計が終わってから構造基準を満たさないことが分かると、さらに追加で工事費用が発生してしまいます。
この辺りは同時進行になる部分もあるので、どのタイミングで打ち合わせや届け出をするのか難しいですが、設計事務所とよく相談しながら作業を進めましょう。
クリニックの開業に関してコンサルタントと契約すれば、どのような内装にすれば経営しやすいかなど、今までの経験からアドバイスをもらえますので、必要な方は検討してみても良いでしょう。
準備5:クリニックで使う機器等の導入
医療機器の導入は、クリニックの開業において大きなポイントになります。医療機器は高額で、1度導入したらその後何年にも渡って使用するからです。
しかも医療機器は日々進歩しており、最新の物を導入したいと思えばキリがないほど選択肢が広がります。クリニックの診療科目とニーズを考えて、どの医療機器を導入するかを選択していきます。
医療機器を購入
医療機器の導入方法として、最初に挙がるのが医療機器の商社から購入する方法です。資金の項目でも触れましたが、医療機器には高額なのもありますので、どのように交渉して値引きするかがポイントです。
医療機器をリース
上記とは別の方法として、医療機器のリースが挙げられます。高額な機器を購入するのではなくリースにすれば、毎月の費用はかかりますが、一度に多くの資金を用意する必要がなくなります。
医療機器の導入方法 | ポイント |
---|---|
購入 | 医療機器は高額なのがも多く、どのように交渉して値引きをするかがポイント。 |
リース | リースすれば、毎月の費用はかかるが、一度に大金を用意する必要がなくなる。 |
どのような機器が必要で、何年くらい使用できるのかを考慮して、医療機器を購入するか、リースにするかを決めていきます。
医療機器の他に導入しなければならないものは薬品です。薬品卸しなどから購入する必要があるので、良い関係を築いておきたいものです。知り合いの先生や友人から紹介してもらうと、安心して取引ができます。
コンサルタントなども医薬品の総合商社などを紹介してくれますが、間に手数料が発生しているので、どのように医薬品の総合商社と関係を築くかを考えておきましょう。
さらに薬品を保存するスペースも作る必要があるので、自前で購入するのか、内装工事の際に作ってもらうのか、この段階で決定しておきます。自前で購入できる備品は、自分で購入する方が節約できます。
準備6:効果的な広告と開業準備
開業前にスタッフを募集し、広告を出して宣伝することで、ようやく患者さんに来てもらえます。新規でクリニックを開業する場合は、良いスタッフを揃えられるかどうかが、クリニックの成功を左右します。
開院する2~3週間前には研修を始める必要があるため、それまでにスタッフを募集し、面接して決めていきます。経験も大切ですが、書類では見えないコミュニケーション能力や意欲などを面接で見極めましょう。
開業してすぐの不安定な時期を乗り切るには、スタッフの力が必要になります。仲間と良いコミュニケーションが取れて、クリニックの診察に前向きに取り組んでくれる人材を見つけ出すことが必要です。
診察シミュレーション
新しいクリニックの場合は、教えてくれる先輩がいない状況ですので、開業前に診察シミュレーションをすることも必要です。
全スタッフが診察の流れを確認し、医療機器の操作方法を覚えておく必要があります。実際の流れをシミュレーションの形で行っておくと、開業初日でもスタッフが慌てることなく診察を進められます。
ホームページ・チラシ
開業前には、ホームページを作成しておきます。今はスマホでクリニックを探す人がほとんどですので、新規患者を獲得するためにホームページは欠かせません。
今でもフリーペーパーなどは活用できますが、1番効果的なのはホームページであり、スマホに対応したホームページは絶対に必要だということを覚えておきましょう。
また、広告などで新規開業のアナウンスをしていきます。その時までには、開設手続きや保険の手続きも終わらせておきましょう。
最後の確認として、法律上の手続きや保険の手続きも問題が無いかを確認しておきます。診察する科目によって提出書類が異なりますが、自分が診察する科目に必要な手続きが完了していることを確認します。
準備7:クリニックの開業前の最終確認
最終的な準備を開業前に全て済ませ、クリニックの開業を待ちます。どのように診察を進めていくのか、スタッフの流れと共に最終確認します。
慣れない作業も多く、開業初日はバタバタしてしまう可能性があるため、イメージトレーニングを重ねておきましょう。安定して経営していくためには、初日にスムーズに開院することが大切です。
院長は3役をこなす
開業した後は、院長として責任をもって経営していく必要があります。つまり院長は、経営者でもあり、医師でもあり、さらにスタッフをまとめる責任者でもあるのです。
経営者としては、経費削減と業務の効率化など、クリニックの経営に関することを決定していかなければなりません。
さらに医師としては当たり前ですが、診療方針などをしっかりと打ち出し、患者さんが満足し、症状が改善する治療が求められます。管理者としては、従業員を教育し、スタッフの質を向上させる必要もあります。
これらの3役で何が求められているのか、しっかりと意識してから開業しましょう。今までは勤務医としての責任だけでしたが、独立してクリニックを開業したら、決定していかなければならない立場になります。
事業主である院長としての責任を受け止めなければ、クリニックを成功させることはできません。
クリニックは医師が治療だけ行えばよい訳ではなく、スタッフの質も含めて評価されます。定期的にスタッフをトレーニングし、患者さんが安心して治療を受けられる環境を作っていくことが求められます。
開業医としてクリニックをオープンさせるには、多くの責任が伴います。これから開業する院長には、うまく責任をこなしていくことが求められるのです。
まとめ
クリニックを開業するにあたり、どのような準備が必要かをまとめてきました。開業医として成功するには、上記のような準備を順を追って進め、その計画通りに物事を進めていかなければなりません。
院長は重い責任を背負うことになりますが、魅力的なクリニックを経営し、多くの患者さんから支持されるクリニックを作ることができれば、それは何事にも代えがたい喜びとなるでしょう。
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